インタビュー:山本幸夫さん

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山本 幸夫
1935年、東京都目黒区生まれ。中学校の授業で版画との出会いを果たす。当時最初の作品で安藤広重の東海道五十三次に挑戦し、才覚を発揮する。

社会に出てからは国家公務員、民間企業などでの職務をこなす一方で版画の製作も行っていた。本格的に木版画の世界に入ったのは定年を過ぎてからだった。その後、長年憧れていたエジプトへと渡りエジプトを木版画で表現すると言う、現在のスタイルを確立。独特の作風とテーマで多くの支持を集めている。

年に1度のペースでさいたま市大宮区の大宮ソニックシティに作品が展示されている。

東海道五十三次から始まったエジプト木版画

-山本さんが版画を始めたきっかけと言うのは何があったのですか?
木版画を始めたのは中学生の時に授業で彫ったのが最初です。安藤広重「東海道五十三次/蒲原の宿」を教科書で見て彫ったんです。先生からは無謀な挑戦だのなんだのいわれましたけど(笑)

でも手本があったと言うのも大きいですけど、出来上がったときは先生も「よくやった!」と言う感じで褒められて。きっとそういう才能と言うかセンスと言うか、あったんでしょうね。子供の頃から竹トンボとかを作って遊んでいたので刃物の扱いには慣れていたというのも大きいのでしょうけれど。

それから木版画に興味を持つようになり、社会に出てからもポストカードとか年賀状に使うような木版画を作り続けたんですね。

-中学生の授業が木版画との出会いだったんですね。僕も小さい頃やった記憶がありますよ。作品の製作についてですが、平均してどのくらいの期間かけて行われるのですか?

なんともいえませんね。まず版画の大きさによって変わってきますね。大きい版画になるほどに彫らなければいけない部分と言うのは当然多くなってきますから。それと、何色かに分けて摺るので、その分の枚数彫らなければいけないんですね。それぞれの色ごとに別々の版木を掘るので色が多くなると大変な作業が増えます。

あとは、彫るものですよね。例えばカルトゥーシュなんかを彫る時には適当に彫る事は出来ませんし、その通り彫らないといけませんからね。慎重に彫っていると結構時間が経ってしまうんですよ。

一月以上の時間がかかるものもありますし、簡単な版画になると1週間もかからないうちにできてしまう事もありますね。

-なるほど。そう考えると大変な作業になってきますよね?せっかく彫っていたとしてもそれぞれの板が少しでもずれていればやり直しになってしまうとか。根気のいる作業だと思います。版画家で尊敬している人や目指している人物などはいらっしゃいますか?

うーん…尊敬している人ですか?実は、他の版画家さんを尊敬という観点では見てないんですね。うまいな、とか、すごいな、と感じる作品を作る版画家さんは何人かいますけれど、尊敬とはまた違うような。

尊敬というと、やはりその人の作風に共感する事になりますから、作風を真似したりだとかそういった感じだと思うんですけれど、私は私の作風を曲げようとか、人の真似をしようとは思っていないので。そういった意味では尊敬とは少し違うと思いますね。

良く人に言われるんですけれど、私って作品の作り方が変わってるらしくて。彫刻刀には三角刀の印刀とか平刀とか種類が様々あるんですけれど、私の場合は掘る部分のほとんどをその平刀でやってしまうんですよね。線を彫る場合なんかは三角刀の方がやりやすいんでしょうけれどね。

-そうでしたか。それにしてもほとんどを平刀で彫っていたなんて、驚きです!やはり、それなりの労力もかかりますし、大変ですよね。

確かに根気は必要ですよね。でも、版画は私にとってみればわが子のようなものですから(笑)

破壊の終わりに見える創造

-ぶしつけな質問からですみません、どうして版画でエジプトを表現なさろうとしたのですか?

そうですね、どちらも好きだったから。というのでは答えにならないでしょうか?

元々、エジプトを版画で表現しようと思って版画を始めたのではなくて、定年前になって定年後何をしようかと考えた時に、好きだった版画を本格的に始めてみようと思って。定年前からその道具集めなど準備は着々と進めていたんですね。

エジプトも昔から好きだったので、定年後になったら行ってみようと思っていたんです。その後なんですよね、エジプトを版画で表現しようと決めたのは。

-そういうことだったんですね。木版画のどのあたりに興味がわいたとか、ここが好きなんだって言う部分はありますか?

もちろんありますよ。私が木版画を作っていて好きなのは、木を削る時のサクッサクッという音と指先から伝わってくる感触がなんとも言えずに好きなんですよね。木版画って、摺る部分を残すように不必要な板目を彫刻刀で削りますよね。破壊していく事が、作品の創造になるという点でも、油絵や水彩画などは色を重ねて仕上げていくじゃないですか。必要なものを積み重ねて完成させるわけですよね。そういった作品とは根本的に違った作り方というのも興味を惹かれる要因だったのかもしれませんね。

-破壊が創造に繋がると。確かによくよく考えると他の作品の作り方とは違っていて特別な存在というような気もしてきますね。

そうですね。それに、作ってみてから木版画のおかげで人との交流がさらに奥深いものになったという感じがしますね。版画は、一度彫ってしまえばあとは刷るだけで何枚でも摺れるわけじゃないですか。そこが他の水彩画や油絵とは違う部分ですよ。元々からそれを狙っていたわけではないですけれど(笑)

-交流が深まるのはいいですね。エジプトを題材にしている作品なのでエジプト旅行中に作品などを渡す事が出来たらすばらしいと思います。

旅行中に出会ったツアー仲間なんかにはプレゼントしていますよ。それをきっかけにして仲良くなる事もありますし。あとは現地のガイドさんに差し上げたりとか。国内でもエジプト関連で出会う人には差し上げることもありますから、たまに旅行先なんか「山本さんの版画持っていますよ」なんていわれるときもあります(笑)

そういう時は、すごく嬉しいですよね。手紙なんかもいただいたりするんですよ。

-それは嬉しいですよね。では、次からはエジプトに関する話を伺いたいと思います!

エジプトと木版画の融合

-前回のお話では定年を過ぎてからエジプトに初めて赴かれたと言う事でしたが?

そうですね、エジプトの事に興味を持ったのは子供の頃だったと思います。写真か何かでピラミッドとスフィンクスを見てすごいなーと思ったのが始まりでしたね。初めてエジプトへ行ったのは定年後の97年でした。

その時宿泊したホテルは、有名なメナ・ハウス・オベロイというホテルで未明にカイロに到着した私は、睡眠をとって朝方に観光に出かけようと思い玄関先に出たんですよ。そこで幾本かの柱の間から聳え立つクフ王のピラミッドが見えたんですよ。エジプト最初の感動でした。

色々な人たちの話を聞くよりも、様々な文献を読んで創造するよりもずっと壮大で、人類の歴史、建築物に対する畏怖を感じましたね。帰国後から、すぐにエジプトの版画製作に取り掛かったんですね。

-なるほど、メナ・ハウス・オベロイはピラミッドの目と鼻の先といっていいくらい目前に迫っていますからね。その迫力は相当なものですよね。エジプトでの思い出など特に印象深かったのはありますか?

見るもの全てが印象深くてどれをとっても語りつくせないですよ(笑)でも、中でもよかったのはナセル湖のクルーズですね。これは印象深かったです。なにせ、ナセル湖のクルーズは人気がないせいか、あまり行く事が出来ないんですよ。それでも行きたかったので旅行会社にお願いして無理に手配してもらったりして。ナイル川がテーマの木版画を製作していたので必ず行きたいところだというのもあったのですが、初めてエジプトでアブシンベルのあたりを回った時にクルーズ船が向かってきているのを見てから、憧れがあったんですよね。

ナセル湖クルーズの途中に船の甲板でスケッチをしていたら、外国の人が近づいてきたので持って来ていた木版画をプレゼントしたんです。そうしたら相手も画家だったみたいで、スケッチの一枚をいただいたりして。いろいろな話で盛り上がったのです。

-同じ芸術の中で生きる人と会話する事もできたという事なのですね。ナセル湖も頻繁に訪れることが出来る場所ではないみたいですし、貴重な体験をなさったという事ですね。

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そういう事になりますね。ほかに体験としては私、ラクダを見つけるとすぐに乗ってしまうんですよ。乗ると大体視線の高さが3mくらいになるので。背が低いのでいつも低い視線で見る事しかないですから、上から眺めてみたくなるんですよね。

-なるほど(笑)現在もナイルをテーマに大きな作品を制作中だと伺ったのですが?

はい、それは「ナイル絵巻」というものを作ろうと考えているのですが、コレが30枚の版画をつなぎ合わせてエジプトを表現していこうというものなんですよね。まだ少ししか出来ていないのですが、2年後くらいには完成を目指して行きたいですね。

作品中をナイル川が貫く形でそのほとりに様々な遺跡や人々が暮らしている様を描いていきたいんですね。せっかくエジプトを日本の木版画で描いているのでいっそ絵巻という手法で表現してみても面白いんじゃないかと思ったわけです。

-日本の芸術と、エジプトの融合ですね。LUXORでも和とエジプトの食の融合を図って、日本人に親しまれるエジプト料理を模索していますから、目指すところは似ているのかもしれません。最後にこれからの抱負や目標と、なにか伝えたい事があればどうぞ。

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当面は「ナイル絵巻」の制作に力を入れて行きたいと思っています。そのほかにもまだまだ作りたい題材がありますからね、一生の楽しみ、人生の喜びとしてずっと続けていきたいと思っています。

その為にも、健康に注意して精神的にも肉体的にも元気に過ごしたいですね。

伝えたい事は、外国のみなさんにも日本の木版画のよさをもっとわかってほしい、そして広めたいという事です。いつかエジプトでも木版画が「モクハンガ」で通用するようになると嬉しいですね。

最後に希望として、叶う事ならエジプトで短期間でもいいので、エジプトに住んでゆっくりと木版画を製作してみたいんですけれどね。素敵な場所ですし、ツアーの日程などに追われることなくゆっくり描いてみたいですよ。

-同感です(笑)本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。

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