エジプトとエステ

beauty

エジプトというと、「美」という観点においては絶世の美女といわれたクレオパトラは誰でも知っているほどに有名ですが、クレオパトラ以外にエジプトで美というと?と考えると、疑問に思う人も多いのではないでしょうか?それは、クレオパトラが美女として有名であって、エジプトに関しては皆さんの中で「美」というイメージがないからかもしれません。ということで、今回はエジプトの知られざる美容法について目を向けてみたいと思います。

ではそもそも、なぜ私たちの中にエジプトは美ではないという固定観念が生まれてしまったのでしょうか?私が考えるにはそれはイスラム教が強い影響を与えているのではないかと考えています。イスラム教では女性は夫以外の男性には肌を見せるべきではなく、顔は目の周辺のみ、体は手首より先だけと、他の部分は体のラインすらわからないような服で覆われています。私たち日本人の美意識とはまったく異なった価値観になってしまい、エジプト(イスラム教国家)は美意識のない国。という固定観念が生まれても仕方のないことなのかもしれません。しかし、元々よりエジプトがそういった国家であったかということを考えると最初からイスラム教の国であったわけではありません。

イスラム教の支配下に置かれる前の古代エジプトでは、壁画を見て頂くとお分かりのように、肌を隠すどころかどちらかというと露出が大きいといった印象を受けることが出来ます。また、クレオパトラの生きていた時代もイスラム教の支配が及ぶ前の古代エジプトの時代になりますから、そういったことから考えていくとエジプトには美的感覚があったことは容易に想像できますね。

さらに、イスラム教国家になった今でも、アラビアの女性というと、目が神秘的で魅力的。といったイメージがあると思いますが、それはつまり美意識がないわけではなくて、唯一見せられる部分で最大限の美を象徴していると考えることも出来ます。イスラム教に改宗した現在のエジプトでも女性の中からは美意識というものは外すことの出来ないものと考えてもいいのではないでしょうか?

さて、エジプトには古代から現代に至るまで長い歴史の中で美というものが磨かれてきたということが見えてきたところで、具体的にエジプトの美というものを探してみることにしましょう。

エジプシャン入浴美容法

それでは、代表的なエジプトの美女。クレオパトラの美容法を元に見てみましょう。

古代エジプト最後のファラオであるクレオパトラは入浴が大好きだったといわれています。世界3大美女の一人として現代でも語り継がれているクレオパトラの素肌は、39歳で亡くなるまで肌年齢は15歳の時のままだったと言われもある位の美肌の持ち主でした。その秘密は他でもないクレオパトラの大好きな入浴に隠されているといわれています。その秘密の正体こそ、入浴時に行うタラソテラピーにありました。

タラソテラピーと言うのは海洋療法という意味で、海辺の空気や海水・海草などを採り入れた療法のことを指します。現代でも欧米では自然治癒療法の一つとして非常に有名な治癒方法です。クレオパトラは、現在のイスラエルとヨルダンの国境に位置する死海という内海の海水を使った入浴をこよなく愛したといわれるほどで、はるばる死海を訪れたとすら伝えられています。そもそも海水には体に必要なミネラルが多量に含まれています。特に死海の海水には美肌の成分であるナトリウム・カリウム・マグネシウムが多く含まれていて、まさに美容に最適な海水だったということですね。

また、クレオパトラはバラを入れた入浴方法を好んでいたといわれています。バラの香りと成分によるアロマ効果と海水による美容効果を掛け合わせて相乗効果を考えた、ぜいたくな美容法だといえるでしょう。

さらに、ミルク風呂というものも古代エジプトの時代から行われていました。古い角質を取り除き皮膚の新陳代謝を促す効果があるとして貴族やファラオ達の生活の知恵として行っていた美容法の一つで、非常に親しみ安い美容方法だったといわれています。この美容方法は乳酸がコラーゲンの生成を促すために肌を滑らかに保つことができ、美白する効果もあると言われています。生涯2人の愛人を虜にしたとクレオパトラの肌はこのような方法で若さを保っていたということになりますね。

アロマリラックス

かねての昔より、人々は植物の香り等を楽しみながら生きてきました。その香りを放つ植物の芳香油のことを精油といいます。もともとこの精油が持っている癒し効果を最初に発見したのは古代エジプト人だと言われています。それが、連綿と続き、現在のアロマテラピーのような形になりました。古代エジプトではミイラを作る時に防腐効果のある乳香(フランキンセンス)や没薬(ミルラ)等が用いられ、神々を祭る神殿では香りをくゆらせる薫香が使われていたといわれています。また、クレオパトラはバラの香りが大好きでオリーブの実をつぶしたものと混ぜてマッサージしていたこと等も知られていますね。古代文明の中で香り(精油)が心や体を癒し活性化するという知識はエジプトで発見されて、後にギリシャ人に伝わり、アラビア人を経てイランの伝統的な医学と結びついていったようです。

古代のエジプトでは女性は頭上に体温で溶けていい香りの出る精油を載せておく器をつけていました。解けることによって女性の髪(当時はかつら)に浸透しポマード状態になって香りを発生させていたと考えられています。こうして、古代エジプトの人々の生活の中に香りは広く浸透していきました。

また、アロマとは違いますが心身を癒し、リラックスさせる方法の中に反射療法というものがあります。古代から人々の考えの中に、人間の身体には全身を流れるエネルギーゾーンがあり、特に足には身体の各部、反射するポイントがあると考えられていたようで、それに伴った治療が古くから行われてきました。古代エジプトでは、紀元前2500年ほどの医師の墓の壁画にその治療の様子が描かれていることからわかります。古代中国やインドでもこうした反射療法というものは発達していたようで、現在では中国の針治療などが日本でも行われ、古代の人々の知恵が現代に至っても広く浸透し、こうした針治療の医療機関や専門学校もよく見かけるようになりました。

反射療法というのは古代に盛んに行われてきましたが、中世では衰退した医療方法でした。ですが、16世紀中頃から改めてその治療の重要性等が注目を集め、研究が重ねられた結果今日に至るように、一般市民も深く受け入れている治療に発展したという経緯があります。

古代エジプト脱毛法

古代から現代の人でも女性なら必ず欠かせなかったのは脱毛行為でした。紀元前3世紀から4世紀頃の地中海地方や古代オリエント時代の遺跡からは、硫黄や石灰に香料を混ぜて水でペースト状にした脱毛剤が見つかっています。それらは主に女性たちが使用していたようです。

紀元前3世紀頃のシュメール人は、ピンセット(毛抜き)を用いて脱毛していたとも言われています。ピンセットでの脱毛というと、現代でもさほど変わりなく利用されている方法ですね。なんだか、古代の人も同じことをしていたと考えると親近感も沸いてしまいます。また紀元前300-100年頃のものとされるギリシア時代の出土品の中に青銅製のピンセットが現存します。

さらに、もう少し時代をさか上って考えると3000年前の古代エジプト人は、蓮の葉を焼いたものにカバの脂肪や油といっしょに亀の甲羅の中に入れたものを脱毛剤として使っていたとも言われていて、その脱毛行為の歴史はずいぶんと古く、長年によって積み重ねられてきた知識や脱毛剤の種類なども多岐にわたっているというのが想像できます。

また、古代アラブ、ギリシャ人は縄を体毛の上に転がして縄目を利用して脱毛していたともいわれていて、エジプト周辺諸国では、古代から様々な方法での脱毛行為が繰り返されてきたということがわかっています。

紀元前30年から40年頃には、エジプトの女王クレオパトラも当時流行していた脱毛剤を使用していました。(クレオパトラを初めとするエジプト人の埋葬品の中に青銅製のカミソリが存在し、砂糖と蜂蜜や蜜蝋を練ったものを脱毛剤として使用していたようです)このようにして、古代エジプト人、特に女性にとっては今も変わらず昔から脱毛行為というのは非常に重要なことだったと考えられています。

カミソリによる除毛も、脱毛剤による脱毛も、ピンセットによる脱毛も現代で何一つ変わることなく利用され続けている方法ですね。脱毛処理…というのは、もしかしたら古代から連綿と未来まで続いていく人類永遠の課題なのかもしれませんね。